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遺伝子ドライブ:マラリアを媒介する蚊は、根絶されるか?

日本住血吸虫症は、ヒトの門脈などに棲息する日本住血吸虫によって引き起こされる。産み落とされた虫卵が肝臓や脳の結果を詰まらせ、肝硬変などの重篤な疾病を引き起こす。中間宿主は、ミヤイリガイと云う小型の貝であり、日本住血吸虫症を撲滅する為に、この貝が標的とされた。ミヤイリガイの棲息する水田の側溝などをコンクリート製にしたり、殺貝剤を撒いたりして、大々的に撲滅作戦がとられミヤイリガイは撲滅され、日本住血吸虫症の新規発症者も出なくなった。

 

感染症の中には、蚊によって媒介されるものがあるが、蚊の根絶は、貝ほど容易ではなく、現在でも、マラリアは多くの人の命を奪っており、また、最近ではジカ熱が、南米で猛威を振るっている。この様な状況の中で、蚊を根絶する事が可能と期待される「遺伝子ドライブ」と云う新しい技術が開発された。

 

遺伝子ドライブとは、改変した遺伝子を目的の部位に組み込むが、同時に、同じ部位のもう1つにも及ぶように設計されている。この為、改変された遺伝子をホモ接合で持つ事に導入個体と野生型の個体との交配を続けていく内に、変異が個体群の中に効果的に拡散していく事になる。

 

ハーバード大学のケビン・エスベルト等は、マラリア原虫に耐性を与える遺伝子をマラリアを媒介する蚊に組み込む事により、マラリアの制御を目指している。また、英国のチームは、メスの蚊に於いて、卵を産生する機能を不活化する遺伝子を遺伝子ドライブとする事により、同じく、マラリアを媒介する蚊の根絶を目指している。

 

マラリアを撲滅する可能性が視野に入るだけに期待も大きいが、同時に、目標とする蚊だけでばく、種を超えて遺伝子が伝播する事になれば、生態系に大きな影響を与える事になり、その放出(遺伝子ドライブをもった蚊の自然界への放出)には、反対論も強いとの事。201668日ニューヨークタイムズの記事(要約)。

 

http://goo.gl/7TFgxC

 

遺伝子ドライブとして知られる革命的な技術は、それが、微生物を改変したり、あるいは、野性にいる全個体群を除去する力を人に初めて与えるものであり、それ故、科学者が2年前にそれを作成する方法を提案した際、興奮と恐怖、両方を引き起こした。

 

例えば、科学者は、毎年30万人ものアフリカの子供の命を奪っているマラリアを媒介する蚊や、あるいは、島の生態系に損傷を与える侵襲的なげっ歯類を一掃する為に、、“遺伝子ドライブ“を展開する事を夢見ている。しかし、その技術は、環境に予期しない害を与える事になり兼ねないと警告する専門家もいる。遺伝子ドライブを規制する為に、連邦政府に要求する科学者もいれば、その技術を一時停止する事を要求する環境監視人もいる。

 

科学的事項に関して連邦政府に諮問するグループである国立科学・技術・医学アカデミーは、その技術に関して研究を続行する事を是認し、ほぼ1年に及ぶ研究の後、リスクはあるものの、その利益は、追求するに決定的に重要であると結論した。諮問グループは、また、環境に意図しない放出の相当なリスクがあると言っている科学者がいるにも拘わらず、“慎重に制御された野外試験”と呼ばれるものを実行する道を開いた。

 

バンダービルト大学の医学倫理学者であり、委員会を指導する手助けをしているエリザベス・ハイトマンは、“人類の苦悩と生態損傷を軽減する潜在性は、科学的な注意を要求する。遺伝子ドライブは、もし、我々がそれを適切に研究するなら、有望な魅力的な科学分野である。”と言っている。

 

報告は、遺伝子ドライブを持つ様に改変された微生物を放出する事を正当化する、遺伝子ドライブの意図しない影響に関する充分な科学的根拠は未だに無い事を強調している。しかし、影響力のあるグループからの遺伝子ドライブ研究に対する青信号は、新しい研究費支援の扉を開き、世界中の政府がどの様にそれが規制され、展開されるかを考えさせる刺激を提供するだろうと科学者は言っている。

 

何世紀もの間、生存や生殖は既に我々の制御下にある生物の遺伝的性質を操作してきた。ペット、家畜、作物、各種の実験動物である。クリスパーと呼ばれる様な新しい遺伝子編集ツールの出現に伴い、子孫に引き継ぐことが可能な特徴を持つヒトの胚細胞を改変する事に関しては、大きな議論になっている。しかし、遺伝子ドライブは、少数の個体の改変により、2〜3世代の内に、野生種全体を潜在的に改変させてしまえる。

 

それをなす我々の能力は、これまでの所、窮地にある。何故なら、ヒトがなす事が出来るどの様な改変であれ、典型的には、自然の習慣に於いて、微生物の生存や再生の能力を減じてしまう、つまり、自然選択が改変された遺伝子を除去してしまうからだ。

 

遺伝子ドライブは、これを、ある特定の遺伝子が、通常の半数ではなく、個別の子孫の全てに継承される事を確実にする事によって克服している。たとえ、遺伝子ドライブを組み込んだ微生物が環境に適合しない場合でさえだ。この現象は、自然の中に存在する事は、長い間知られており、クリスパーが、それを組み込む効率的な方法を提供している。クリスパー編集システム自体を微生物のDNAに組み込む事によって、科学者は、それぞれの世代に於いて、望みの編集を再現する事ができ、その特徴を野生個体群を通して、“運転”するのだ。

 

その科学は、政府の強力な興味を惹きつけており、非営利組織や研究機関は、遺伝子ドライブの公衆衛生や農業、それに環境保護に対する可能性を探索するのに夢中になっており、報告書は、その様な研究への資金援助の扉を開く様に見える。

 

同時に、その技術がどの様に規制されるかは不透明である。現在の法律は、精確に速やかに拡散する事が目的の管理ではなく、遺伝子改変された微生物を囲い込む事を目的としていると報告書は注意を促している。報告書は、もし、遺伝子ドライブを組み込まれた微生物が故意にあるいは偶然に放出された場合、何が起きるかを予想する事は困難であると指摘しており、そしてそれが、“多くの倫理上の疑問や現在の統治機構への課題を提供すると言っている。

 

国際的な規制の枠組みの登場は、特別に、極めて重要であり、委員会のメンバーは、遺伝子ドライブは、国境や政治的な境界を認識しないだろうと言っている。現在の所、米国のFDA(食品医薬品局)は、遺伝時操作による外来DNAを組み込まれた動物は、ある種の薬剤であるとして、権限を持っている。しかし、「Fish and Wildlife Service」や「Bureau of Land Management」等の他の部局は、遺伝子ドライブ実験の核心部分で生態学的懸念に於いて利害関係を持っているように見える。

 

“もし、我々が、規制モデルを他の国にも提供する為に、共に法令を作る事が出来るなら素晴らしい事だ。”と報告書を作成した諮問委員会の16人の専門家の1人であり、ノースカロライナ州立大学の科学、政策、社会の教授であるジェイソン・デルボーン氏は言っている。

 

倫理学者、生物学者などを含む諮問委員会は、遺伝子ドライブの技術を制限している間、研究を許容する事によって均衡のとれた解決策を見出していると独立系の科学者は言っている。しかし、遺伝技術に対する反対論者は、委員会は、少なくとも、多く持ち上がっている疑問のいくつかに答えるまでは、遺伝子ドライブの研究を中止するように要求すべきだと主張している。

 

報告書は、出現しつつある遺伝子編集技術(ヒトのゲノムを編集する事に関する締め切りは今年の後半である)によって提起された国立アカデミーによる、倫理、科学的かつ社会的課題に関する一連の研究の最初のものである。

 

委員会は、6例の事例研究を考えている。それらは、島に於ける生物的多様性を破壊するマウス、ハワイに固有の鳥類にマラリアを感染させる蚊、そして、除草剤に耐性をもつようになり、農家に災害を与えるパーマー・アマランスと呼ばれる雑草、等を制御する為に、遺伝子ドライブを使用する事である。

 

遺伝子ドライブの個々の潜在的な使用は、一連のリスクと利益を持ち、それは、独立して評価されるべきだと報告書は述べている。生態系に影響を与えるであろう“個体群動態と進化論的過程の流れ”をモデル化するに際しても、さらなる研究が必要とされていると報告書は、注意を促している。遺伝子ドライブが、意図していない他の種に飛び移ったり、あるいは、望まない微生物を抑制したりする事は、さらに悪い別のリスクの出現に繋がるかも知れない。

 

委員会は、最終的に微生物を自然界に放つ前に、個々の段階に於いて安全策を講じるなど、“試験段階”を推奨しているが、その様な微生物の放出によって環境が影響を受ける人々からの同意をどの様にして取得するかと云う新しい倫理上の課題に注意を促している。“その様な参加への方法は、殆ど無いし、また、地域がどの様に参加する事が出来るか、あるいは、参加すべきかに関する指針は不十分である。”と報告書は注意を促している。

 

遺伝子ドライブは、それが、通常の半分ではなく、実質的に全ての子孫に継承される事を確実にする事によって、個体群に特徴を拡散させる。実験室の中での実験では、望ましい変化は、ハエや蚊の子孫のほぼ100%に現れている。これまでの所、遺伝子ドライブ研究は、ヒトに感染症を伝達する蚊に主として焦点を合わせて来た。国立科学アカデミーの報告書への研究費を支援したビル、メリンダ・ゲイツ基金は、マラリアを拡散する蚊の根絶を狙った遺伝子ドライブ計画におよそ4,000万ドルを費やした。

 

カリフォルニア大学アーバイン校の蚊の研究者であるアンソニー・ジェームズは、ジカウィルスを伝播するアエデス・アエジプチ蚊の根絶に遺伝子ドライブを使用する事の賛同者であるが、委員会の報告書を“合理的”と言っている。

 

しかし、環境監視グループは、報告書は、研究の停止を推奨すべきであったと主張している。モントリオールにあるETCグループのプログラム・ディレクタであるジム・トーマスは、委員会は、商業的、あるいは軍事的な利益から、遺伝子ドライブの濫用をどの様にして予防するかに対して、軽くあしらってしまったと言った。遺伝子ドライブは、米国の管理下に置かれるべきだと彼は言っている。

 

そして、遺伝子ドライブを開拓したマサチューセッツ工科大学進化生物学者であるケビン・エスベルトは、報告書は、重要なリスクに充分な注意を払う事に失敗したと言っている。“彼らは、閉鎖系での野外調査が安全に行なえると仮定している。しかし、遺伝子ドライブ系を持った微生物を自然界に放つ時は常に、それが、全世界的に拡散する顕著な機会がある事を仮定するべきだ。”と彼は言っている。

 

 

16:35 | epigraph | 医療情報 | comments(0) | -
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